バングラデシュ(1971年パキスタンより独立)首都のダッカは、経済成長が著しいこともあって世界有数の人口過密、渋滞都市となっている。このままでいくと、交通渋滞が更に悪化して移動は徒歩の方が早いということもあって、いよいよ渋滞緩和のためのメトロ(高速大量輸送旅客鉄道)が日本融資の下で開通する運びとなった。
12月28日付
『ブルームバーグ』オンラインニュース(1981年設立)は、「世界有数の過密都市に初の大量輸送鉄道が開通」と題して、交通渋滞激化が止まらないダッカに、日本融資で建設された初のメトロが開通する運びとなったと報じている。
世界有数の過密都市のバングラデシュ首都に、いよいよ交通渋滞緩和のため、日本融資を受けて建設されたメトロが開通する。
20キロメートル(12.327マイル)の都市鉄道ライン6は12月28日、シェイク・ハシナ首相(75歳、2009年就任)の立会いの下で開通式が行われる。
同メトロは、同市北部から政府庁舎・病院等が立ち並ぶ中部まで走ることになる。
その後、南部の金融街となっているモティジール区まで延伸される予定である。
同メトロ開通は、住民にとって渋滞緩和の一助となるが、2024年1月に総選挙を迎えるハシナ政権にとっても追い風となると期待されている。
何故なら、他途上国と同様、同国の外貨準備高の減少に加えて物価高やエネルギー不足に見舞われ、政権にとって逆風となっているからである。
ダッカ首都圏では目下、305平方キロメートル(117.76平方マイル)の範囲に1,030万人が暮らしており、平均運転速度が時速7キロメートル(4.3496マイル)以下と、10年前の平均21キロメートルより大幅に悪化する程交通渋滞が深刻化している。
世界銀行(WB、1944年設立)の試算によると、このまま人口増の状態が続くと、平均速度は4キロメートルと徒歩より遅くなってしまうという。
WB元チーフエコノミストで現在WB総裁顧問のマーティン・ラマ氏はインタビューに答えて、“メトロ開通はダッカのような大都市にはとても重要なことだ”とした上で、“インドの例でも明らかなように、鉄道開通で住民の労働生産が著しく向上しているだけでなく、特に女性にとっても移動の安全性確保という面で意義深いことだ”とコメントしている。
ダッカの交通渋滞は異常で、毎日約320万労働時間が失われる計算となり、同国の深刻な経済損失となっている。
英国経済紙『エコノミスト』(1843年創刊)の調査部門が毎年発表している「世界で最も住みやすい都市」2022年ランキング(注後記)で、ダッカは対象172都市の中で下から7番目と評価されている。
かかる事情から、同国政府は2012年、日本からの1,659億5千万タカ(約2,124億円)融資を得て、総工費2,198億5千万タカ(21億ドル、約2,814億円)のライン6建設計画を承認した。
ただ、同国政府が後に、同メトロを南部モティジール区にある、全国鉄道網の中央駅となっているカマラプール駅まで延伸させることを決めたことから、総工費は3,347億2千万タカ(約4,284億円)まで膨張している。
日本は、その他2つの都市鉄道建設へ融資する意向である。
国際協力機構(JICA、1974年前身設立)のウェブサイトによれば、3つの路線が完成した暁には、毎日200万人が輸送可能となるという。
一方、同国は今年6月、同国北西部からダッカ南部に注ぐパドマ河にかけられた、同国最長となる6キロメートルの橋の開通式を行っている。
同橋の開通で、同国人口の約半分の8千万人の住民の往来が活発化することになる。
(注)「世界で最も住みやすい都市」2022年ランキング:1位ウィーン(オーストリア)、2位コペンハーゲン(デンマーク)、同率3位チューリッヒ(スイス)・カルガリー(カナダ)で、同率10位に大阪。なお、2021年ランキングの2位より悪化、また、4位東京もトップ10圏外。
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新型コロナウィルス(COVID-19)感染流行問題で大打撃を受けた航空会社は、With-COVIDが定着した欧米を中心に著しい回復を遂げつつあり、2023年にはCOVID-19前の収益が期待できるという。しかし、With-COVIDへの舵切りに慎重な日中を中心とするアジアの航空会社は大きく立ち遅れている模様である。
12月6日付
『ロイター通信』は、「世界の航空会社の2023年収益が元に戻りつつあるも、空港との使用料交渉が難航」と題して、欧米を中心にコロナ禍に喘いだ航空会社が、来年以降の収益力回復が力強いとするも、一方で使用料の大幅上昇を通知してきた空港との交渉に難航していると報じている。
世界の航空会社は、2019年末に発生・拡大したCOVID-19感染問題で疲弊していたが、漸く来年にはCOVID-19感染前のレベルまで収益の回復が期待できるとする。
すなわち、総計40億人以上の搭乗客が見込まれ、47億ドル(約6,440億円)の純利益が期待できる、とする。
但し、利用する空港が、航空会社のみならず利用客にも大幅な空港使用料値上げを通知してきていることから、収益を押し下げる可能性が高いという。
国際航空運送協会(IATA、1945年設立、注1後記)のウィリー・ウォルシュ会長(61歳、アイルランド出身、元ブリティッシュエアウェイズ社長、2021年就任)が12月6日に表明したもので、“各国政府が課した様々な行動制限措置に伴う資金的及び経済的損失を考えた場合、大変偉大な復活劇だ”とコメントした。
ただ、同会長は、来年も多くの航空会社が、規制、コスト増、一貫しない政府政策に翻弄されることになると語った。
その上で同会長は、空港会社側と長い間論争が続いている空港使用料問題も逆風となると付言した。
すなわち同会長は、“航空業界は確かに復活しつつあるが、依然脆弱だ”とした上で、“航空業界の利幅は然程大きくなく、空港会社側が要求してきている航空会社及び乗客に課す空港使用料の甚大な値上げにはとても耐えられない”と強調している。
一方、国際空港評議会(ACI、1991年設立、注2後記)欧州のオリビエール・ヤンコベック事務総長(元アリタリア航空勤務、2006年就任)は、“乗客は航空会社による膨大な値上げに苦しんでいる”とし、“航空産業を航空会社グループが実質支配している環境から、彼らの航空運賃値上げがインフレ圧力を増長している”と批判した。
その上で同事務総長は、“確かに空港使用料の値上げもインフレ圧力となっていることは認めるが、果たしてどちらがより大きい脅威となっているかだ”とも言及している。
これに対して、ウォルシュ会長は、エネルギー価格の高騰で航空運賃を止む無く値上げしているとした上で、グリーン燃料(脱炭素)に転換したら更に運賃を値上げせざるを得なくなる、とコメントしている。
なお、IATAの発表によると、米国主導によって世界の航空会社の就航便数は2024年までには2019年のCOVID-19問題発生以前のレベルまで回復すると見込んでいるとしているが、アジア太平洋地域は“非常に立ち遅れている”としている。
IATAのマリー・オーウェンズ主任エコノミスト(2022年就任)は、同地域の直近の見通しは“下落傾向が強い”とした上で、特に中国次第で“更に不確定”となる見込みだと警鐘を鳴らしている。
すなわち、もし中国がCOVID-19に伴う都市封鎖や行動制限を緩和しない限り、航空会社の収益性は悪化する上、2023年に複数の国で景気後退が起こるリスクがあり、更に状況は暗転するとしている。
また、ウォルシュ会長は、航空機メーカーのジェット機納期の大幅遅延についても不満を訴えている。
『ロイター通信』は12月2日、エアバス(1970年設立のEU内4ヵ国の合弁企業)の12月におけるジェット機納期状況は過去最悪レベルに近い遅延となっている、と報じている。
同日付『AFP通信』は、「IATA、航空会社は2023年に黒字化と発表」と詳報している。
IATAの発表によると、世界の航空会社の収益は2023年には黒字化し、同年の純利益は47億ドルが見込まれるという。
但し、このレベルはCOVID-19問題発生前の2019年実績の264億ドル(約3兆6,170億円)に比べて依然遥かに低い。
また、利用客もCOVID-19前の85.5%までしか回復しないとみている。
IATAのウォルシュ会長は、一部の航空会社は“十分な収益”が確保でき、燃料の脱炭素化に投資できる程回復してきていると語った。
しかし、多くの会社は依然、“煩わしい規制、コスト増、一貫しない政府政策、不十分なインフラやバリューチェーン(注3後記)に苦しめられている”と付言した。
(注1)IATA:世界の航空会社で構成される業界団体。117ヵ国290社の、主に大手航空会社が加盟し、世界の定期運航の有効座席キロ数のおよそ82%を加盟各社が占めている。IATAは航空会社の活動を支援し、業界の方針や統一規準制定に寄与してきた。本社の登記地はカナダ・モントリオールで、本社機構はスイス・ジュネーブに置いている。
(注2)ACI:1991年に設立された、空港の管理者の団体。177の国や地域にある1957の空港を管理運営する641の団体が加盟(ACI欧州は、45ヵ国の500余りの空港会社が加盟)。本部はカナダのモントリオール。安全で効率的な航空技術・運航システムの開発、空港経営の効率化、騒音など環境問題の改善などについて情報交換し国際民間航空機関や各国政府への働きかけをしている。また、各空港の旅客数、貨物取扱量などの統計やサービス状況などについて調査・集計して世界の空港ランキングを公表している。
(注3)バリューチェーン:原材料や部品の調達活動、商品製造や商品加工、出荷配送、マーケティング、顧客への販売、アフターサービスといった一連の事業活動を、個々の工程の集合体ではなく、価値(バリュー)の連鎖(チェーン)として捉える考え方。
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