既報どおり、習近平国家主席(シー・チンピン、69歳、2012年就任)が主導する「一帯一路経済圏構想(BRI)」では、スリランカ他アフリカ数ヵ国に“債務の罠(注1後記)”にはまって債務超過に陥る国が出現している。そうした中、中国の現在及び今後の経済成長率が大幅減少する見通しから、融資先の国々への債務弁済見直しや追加融資の話が厳しく制限されることに伴い、債務超過に陥る国がアフリカを中心に7ヵ国にも上っている。
11月3日付
『アジアンニュース・インターナショナル』オンラインニュース(1971年設立)は、「中国の融資政策後退によって債務の罠に陥る国がアフリカで続出」と題して、中国政府による現下及び将来の経済成長率大幅減少見通しに伴う融資政策後退によって、特にアフリカ諸国で債務超過に陥る国が増加していると報じている。
イタリアの経済評論家フェデリコ・ジュリアーニ氏は『インサイド・オーバー』オンラインニュースへの投稿文で、中国が融資先のアフリカ諸国への追加支援に消極的となったことから、これらの国は中国の“債務の罠”にはまったと感じ始めている、と言及している。
新興国向け新規融資銀行のルネッサンス・キャピタル(1995年設立)のチャールズ・ロバートソン主任エコノミストも、中国の融資規模縮小によってアフリカ諸国の経済成長を後退させる恐れがあることから、“ほとんどの債務国が望まない事態に陥る”ことになると認めている。
かかる事態に加えて、世界経済の成長率鈍化や現下のロシア・ウクライナ戦争による影響に鑑み、世界銀行(1944年設立)はこの程、サブ・サハラン・アフリカ(SSA、注2後記)の2022年の経済成長率を、4月時予測の3.6%から3.3%に引き下げている。
ロバートソン氏は、中国がBRI推進に伴う融資を始めた頃は、アフリカにおける債務危機が見込まれる国は全体の25%であったが、現在は60%まで増加していると述べている。
ドイツのアリアンツ保険(1890年設立、世界有数の金融グループ)及びその傘下のユーラーヘルメス信用保険(EH、2002年設立)は、2020年11月に既にその危険性について明らかにしていた。
更に、EHによると、向こう10年間をみると、中国はこれまでに行ったようなアフリカ向け投資、融資、及び貿易は不可能になると見込まれるという。
2020年時の報告書では、2013年における主要20ヵ国(G-20)が保有する総債権額の45%は中国であったが、2019年には63%にも増えているという。
すなわち、中国はこれまで、資源の確保と輸出拡大のために諸外国に相当な投融資を行ってきた結果による。
しかし、『インサイド・オーバー』に掲載された複数の経済評論家の見方によると、“中国は今後2、3年に国際投融資をかなり後退させる”とした上で、中国が目下対峙している米国との貿易紛争に加えて、以下の2つの事態に直面しているからだとする。
第一に、習近平国家主席の指導の新発展モデル“双循環”政策の下、輸入依存度削減のために国内市場開発を優先させると同時に、輸出市場のシェアは維持することによって、結果として資金の海外流出が抑えられることになる。
第二に、中国自身の経済成長率が、2010年代に達成した年7%の時代は終わり、今後10年間は3.8%から4.9%レベルまで縮小するとみられることから、海外向け投融資活動が制限されることになるからである。
この結果、特に低・中所得国に悪影響を及ぼすことになると分析している。
具体的には、中国が投融資した多くの向け先で深刻な債務不履行が発生している。
特に7ヵ国が顕著で、アフリカにおいてはアンゴラ(1975年ポルトガルより独立)・エチオピア(紀元前980年頃建国)・コンゴ共和国(1960年フランスより独立)・ザンビア(1964年英国より独立)が中国への融資金返済が不可能となっている。
また、南アジアのスリランカ(1948年英国より独立)は、最悪の経済危機に見舞われていることから、既に中国との債務再編交渉に入っている。
更に、アフリカの中で最大経済規模を誇るナイジェリア(1960年英国より独立)であっても、2022年6月末現在の対中債務額が39億ドル(約5,770億円)と、昨年同時期の35億ドル(約5,180億円)から12.7%も増加している。
なお、ボストン大(1839年設立の私立大学)世界開発政策センターのデータによると、2000年から2020年の間に、中国から融資を受けたアフリカのトップ10ヵ国は、アンゴラ・エチオピア・ザンビア・ケニア(1963年英国より独立)・エジプト(1922年英国より独立)・ナイジェリア・カメルーン(1960年フランスより独立)・南アフリカ(1910年建国)・コンゴ共和国・ガーナ(1957年英国より独立)であるという。
一方、『インサイド・オーバー』に投稿した経済評論家は異口同音に、アフリカの多くの国がインフラ建設やその他開発プルジェクト推進のために中国支援に頼っていることから、(投融資後退方針によって)アフリカの数千万人の生活が台無しにされてしまうとして、中国を非難している。
(注1)債務の罠(借金漬け外交):国際援助などの債務により債務国、国際機関の政策や外交等が債権国側から有形無形の拘束を受ける状態をいう。この表現は、インドの地政学者ブラーマ・チェラニー教授(60歳、インド政策研究センター)によって、中国の「一帯一路経済圏構想」と関連付けて用いられたのが最初。債務国側では放漫な財政運営や政策投資などのモラルハザードが、債権国側では過剰な債務を通じて債務国を実質的に支配下に置くといった問題が惹起されうる。
(注2)SSA:サハラ砂漠以南のアフリカの意で、全54ヵ国中49ヵ国を指す。北アフリカの国がアラビア語の単一言語社会であるのに対して、複数の民族言語、旧宗主国の言語等が混在する多言語社会。途上国が多く、アフリカの全人口の約8割となる約9億人が暮らす。
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