北朝鮮情勢を追う(6月4日)
(米朝会談目前に新たな動きを見せる北朝鮮)
6月12日にシンガポールで行われる米朝首脳会談を目前に控え、北朝鮮が新たな動きを見せている。韓国の複数のメディアによると国家情報院当局の話として北朝鮮軍の第1副参謀長を務めていたリヨンギル氏が北朝鮮軍総参謀長官に就任し、人民武力相の第1次官だったノグァンチョル氏が人民武力相にそれぞれ就任した。先月、新軍総政治局長に就任すると北朝鮮国営メディアが報道したキムスギル氏を含めると、北朝鮮軍の高官3人がそろって交代することになる。...
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(米朝会談目前に新たな動きを見せる北朝鮮)
6月12日にシンガポールで行われる米朝首脳会談を目前に控え、北朝鮮が新たな動きを見せている。韓国の複数のメディアによると国家情報院当局の話として北朝鮮軍の第1副参謀長を務めていたリヨンギル氏が北朝鮮軍総参謀長官に就任し、人民武力相の第1次官だったノグァンチョル氏が人民武力相にそれぞれ就任した。先月、新軍総政治局長に就任すると北朝鮮国営メディアが報道したキムスギル氏を含めると、北朝鮮軍の高官3人がそろって交代することになる。このことについて韓国統一省のペクテヒョン報道官は「公式には確認できていないものの、全て一度に交代したとすれば異例のこと」との認識を明らかにした。非核化が議題となる米朝首脳会談に向けて、軍部内の強硬派を抑え込む狙いが北朝鮮にあるのではないかという見方がでている。
(現在主導権を握っているのはトランプ大統領)
一方で、北朝鮮メディアが金英哲氏の米国派遣を未だに伝えていないというのも気にかかる。考えられる可能性としてはトランプ大統領の会談中止表明に焦り、慌てて駆け付けた事実が、北朝鮮人民に一種の“屈服”と受けとられかねないことを懸念したため、この情報を伏せているとも考えられる。金正恩氏の親書にトランプ大統領が目を通していないことや、宿泊費が払えないことなどが大々的にメディアに報道されたことなども合わせて考えると現在主導権を握っているのはトランプ大統領であり、北朝鮮の足元を見ながら着々と駒を進めている印象さえ感じさせなくもない。
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対北朝鮮経済制裁をめぐる動き(6月3日)
金英哲副委員長との会談を終えたトランプ大統領は、「最大限の圧力という言葉は使いたくない」と言明した。北朝鮮に対し検討されていた新たな制裁措置はとらないという意味かもしれないが、国際社会のなかで制裁措置が徐々に緩んでいきそうな気配である。米朝首脳会談の際の北朝鮮代表団のシンガポールでの滞在費用をシンガポール政府が肩代わりするのではないかとの報道すらでている。
一方6月2~3日にシンガポールで開催されているアジア安全保障会議で小野寺防衛大臣は冒頭のスピーチで演説の半分以上の時間を使って北朝鮮問題について言及し、北朝鮮への圧力の継続を訴えた。...
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金英哲副委員長との会談を終えたトランプ大統領は、「最大限の圧力という言葉は使いたくない」と言明した。北朝鮮に対し検討されていた新たな制裁措置はとらないという意味かもしれないが、国際社会のなかで制裁措置が徐々に緩んでいきそうな気配である。米朝首脳会談の際の北朝鮮代表団のシンガポールでの滞在費用をシンガポール政府が肩代わりするのではないかとの報道すらでている。
一方6月2~3日にシンガポールで開催されているアジア安全保障会議で小野寺防衛大臣は冒頭のスピーチで演説の半分以上の時間を使って北朝鮮問題について言及し、北朝鮮への圧力の継続を訴えた。トランプ大統領の「最大限の圧力という言葉は使いたくない」と語った言葉に触れながらも、同大統領が「北朝鮮が非核化に応じない限り、制裁は解除しない」とも述べていると強調した。
一方アジア安全保障会議に出席していた米韓の国防長官は二者会談で、双方は、国連の経済制裁と米韓軍事同盟が、半島情勢の変化に貢献していることを認めたうえで、さらにマティウス国防長官は「半島情勢の如何に関わらず、駐韓米軍の規模は不変であり、北朝鮮が完全で、検証可能な、不可逆的な非核化をしない限り、米国は国連の制裁決議を順守するし、軍事的な援助も提供する」としている。来るべき米朝首脳会談では、在韓米軍については議題にしないと報道されているが、トランプ大統領が予定されていないことをつぶやかないようにとの布石であるのかもしれない。
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米朝首脳会談の先に生じる問題(6月2日)
金正恩委員長からの親書を受け取ったトランプ大統領は、6月12日に米朝首脳会談が開催されることを明言した。同時に6月12日の会談はプロセスの始まりであり、なんらかの署名をするつもりはない、とも語っている。
同時に北朝鮮の経済支援については、韓国や日本、中国が行うべきで「米国が支出する必要はない」とも述べている。以前にも北朝鮮が非核化したら、マーシャルプランを北朝鮮に対し実行するが、その費用の分担は韓国と日本だ、と語っていたのを改めて強調したことになる。...
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金正恩委員長からの親書を受け取ったトランプ大統領は、6月12日に米朝首脳会談が開催されることを明言した。同時に6月12日の会談はプロセスの始まりであり、なんらかの署名をするつもりはない、とも語っている。
同時に北朝鮮の経済支援については、韓国や日本、中国が行うべきで「米国が支出する必要はない」とも述べている。以前にも北朝鮮が非核化したら、マーシャルプランを北朝鮮に対し実行するが、その費用の分担は韓国と日本だ、と語っていたのを改めて強調したことになる。
費用分担が必要なのは、北朝鮮の経済再建だけではない。非核化にも膨大な費用がかかる。核兵器・核物質、核技術者の海外移転の費用だけでなく、査察の費用もかかる。さらに「申告されない」核物質が本当に存在しないのか、という「無いことの証明」をするためには、査察の人手と年月がかかる。核兵器の開発の初期段階でしかなかったリビアよりは、はるかに大変である。
経済再建にもインフラや工場の建設だけではなく、老朽化した設備の撤去の費用もかかることになる。さらに経済運営、マネージメントというソフト面のコストも必要である。もっともこれは現在の北朝鮮で「なし崩しの市場経済化」が進んでいることからすると、かつてソ連からロシアになったときの民営化の時よりは(国家の規模が違っているとはいえ)ショック状態は少なくてすむかもしれない。
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北朝鮮情勢を追う(6月2日)
(6月12日の米朝会談が正式決定)
トランプ大統領が予定通り、6月12日にシンガポールで米朝首脳会談を行うと発表した。場所は北朝鮮が推していたセントーサ島になる可能性が高いとみられる。訪米中の金正恩朝鮮労働党委員長の側近・キムヨンチョル朝鮮労働党副委員長がトランプ大統領に金正恩委員長の親書を手渡した直後、トランプ大統領は親書に目を通すことなしに報道陣の囲み取材に応じた。親書の内容は現在、ボルトン大統領補佐官が精査しているという。...
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(6月12日の米朝会談が正式決定)
トランプ大統領が予定通り、6月12日にシンガポールで米朝首脳会談を行うと発表した。場所は北朝鮮が推していたセントーサ島になる可能性が高いとみられる。訪米中の金正恩朝鮮労働党委員長の側近・キムヨンチョル朝鮮労働党副委員長がトランプ大統領に金正恩委員長の親書を手渡した直後、トランプ大統領は親書に目を通すことなしに報道陣の囲み取材に応じた。親書の内容は現在、ボルトン大統領補佐官が精査しているという。今回の発表の中でトランプ大統領は「会談は非常に大きな成功のきっかけとなるだろう」「最後は成功するだろう」などと前向きな姿勢を示し、「もう、最大限の圧力という言葉は使いたくない」と北朝鮮に対する姿勢を軟化させた。トランプ大統領には11月の中間選挙を成功させ、国内基盤を固めたいという大きな思惑がある一方で、北朝鮮にも脱北者が相次いだり、食料やエネルギー不足も厳しくなり民衆の不満が高まってきているという事情があるため、金正恩委員長には、揺らいできた体制を9月9日の建国70周年記念日までに固めたいという思惑がある。時間軸で考えた場合、6月12日が両者にとってはギリギリのタイムリミットということになり、まさに思惑が一致したと言っていいだろう。
(12日の会談は非核化の方向性を打ち出すだけ)
非核化をめぐっての米朝の溝はポンペオ国務長官とキムヨンチョル副委員長による事前協議でも埋まらなかった。米国は完全で不可逆的な核廃絶(CVID)の姿勢を譲る姿勢はみせていないし、北朝鮮も見返りを受けつつ、段階的に核を削減する姿勢を崩していない。トランプ大統領は今回の発表の中で「12日の米朝首脳会談で米国は署名することはない」「1日の会談では終わらない」「時間をかけてやればよい」などと、会談が複数回に及ぶ可能性も示唆している。12日の会談はあくまでも非核化の方向性を打ち出すものに過ぎず、具体的内容については今後の会談に委ねるべきもので核交渉には長い時間がかかるということをすでに織り込み済なのだろう。ポンペオ国務長官は「今後、数週間から数か月の間は金正恩委員長が決断できる指導者かどうか米国が見極める機会となるだろう」と述べたが、トランプ大統領も、一回だけの米朝首脳会談で全て解決することは不可能だと判断したように感じる。
(活発な動きを見せる中ロ・日本にも出番が到来するか)
12日の会談をめぐる一連の駆け引きの中で、他国の動きも活発化している。これまで孤立してきた北朝鮮の背後に中国とロシアがはっきりとついたことが、今回1つの大きなポイントと言ってもいいだろう。中ロは北朝鮮の主張する核の段階的廃絶を支持している点でも共通している。これまで存在感の薄かったロシアは6か国協議の開催を主張する可能性が高いが、そうなると日本の出る幕も出てくる。トランプ大統領は「北朝鮮の経済復興に関しては日本や韓国が支援すべきだ」とやや前のめりな発言をしているが、日本としては日本が損失を被らない形で核・ミサイル交渉や拉致問題に影響力を行使していくチャンスが出てきたと捉えるべきである。あと10日に迫る米朝首脳会談だが、トランプ大統領と金正恩委員長による単なる政治ショーに終わらせないために、例えば安倍首相がセントーサ島に行って、金正恩委員長と接触を図るなどということも視野に入れるなど、日本としては可能な限り知恵をしぼらなければならない。
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もう1通の親書:ロシアも参入か(6月1日)
北朝鮮の金英哲労働党副委員長がニューヨークでポンペオ国務長官と米朝首脳会談にむけての会談を行い、金正恩委員長の親書を手渡した。一方同時期に平壌ではロシアのラブロフ外相が金正恩委員長にプーチン大統領の親書を手渡している。
金正恩委員長とラブロフ外相は朝鮮半島の平和、さらには経済協力について話し合っている。米朝首脳会談が開催され、経済制裁が実質的に緩和された場合に備え、ロシアも「バスに乗り遅れるな」ということのようだ。...
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北朝鮮の金英哲労働党副委員長がニューヨークでポンペオ国務長官と米朝首脳会談にむけての会談を行い、金正恩委員長の親書を手渡した。一方同時期に平壌ではロシアのラブロフ外相が金正恩委員長にプーチン大統領の親書を手渡している。
金正恩委員長とラブロフ外相は朝鮮半島の平和、さらには経済協力について話し合っている。米朝首脳会談が開催され、経済制裁が実質的に緩和された場合に備え、ロシアも「バスに乗り遅れるな」ということのようだ。
さらに台湾の「聯合新聞網」(2018年5月29日)は、6月9日中国の青島(山東省)で開催される上海協力機構首脳会議に合わせて金正恩委員長が3度目の訪中をし、青島で中朝露の首脳会談が行われる、との観測記事を掲載している。上海協力機構は2001年に前身の上海ファイブにウズベキスタンを加えて6か国で発足、テロ対策やエネルギー資源の開発などを目的として設立されたもので、その後インド、パキスタンがメンバー国となり、アフガニスタンなど4か国がオブザーバー国となった。北朝鮮はメンバー国でないことから、もし中朝露の首脳会談が行われるとすれば、上海協力会議の首脳会議とは別途開催されることになる。すでにプーチン大統領は5月21日に上海協力会議への参加を表明している。
北朝鮮は2016,17年には中国が主催する国際会議にあわせるかの如く、ミサイル発射を行ったこともあった。2016年の杭州でのG20の会議や2017年北京で開催された一帯一路会議のときである。まさか国際会議に金正恩委員長を呼んでおけば、中国は面子を潰されることはない、と思ったわけではあるまい。
また中朝関係が悪化していた時期(2016-17年)には、金正恩委員長は身の危険を感じたときには、ロシアに亡命するのではないか、ロシアも受け入れ準備がすんでいるとの説もあった。中ソが対立していた時代に北朝鮮は中ソという大国の狭間でバランスをとった外交をしていたが、北朝鮮がロシアに秋波を送るのは、北朝鮮の外交感覚がなせるわざなのであろうか。ロシアもどちらかというとアジアでは劣勢であったことから、巻き返しを図ろうとしているとも考えられる。
中国とすれば、中国の北朝鮮への影響力を確保するためには、ロシアの影響力がないほうがよいはずであるので、中朝露の三か国首脳会談が開催される可能性は高くないと思われる。ただし同時期にカナダのシャルルボワでG7が開催され、北朝鮮問題も議題にのぼるであろうことを考えれば、6月12日のシンガポールでの米朝首脳会談をにらんでの中露の対米戦略の一環である可能性もある。
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