加熱する米中覇権争いを検証する(5月18日)
貿易戦争、すなわち関税の問題や戦略的技術、安全保障をめぐる技術に関連する部品の供給を止めるハイテク戦争問題などで米中が激突し火花を散らしており、6月のG20ではとても収束しそうな雲行きには見えない。米中による巨大なせめぎあいの中で世界の国が右往左往している。中国側は「米国は中国との交渉推進に十分誠意を持って臨んでいるようにはとても見えないどころか、むしろ強硬な姿勢に出てきている。米国が中国人民の意志を無視するならば、中国側から実効ある反応を引き出すことは恐らく今後も一切ないだろう」と米国側をけん制している。...
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貿易戦争、すなわち関税の問題や戦略的技術、安全保障をめぐる技術に関連する部品の供給を止めるハイテク戦争問題などで米中が激突し火花を散らしており、6月のG20ではとても収束しそうな雲行きには見えない。米中による巨大なせめぎあいの中で世界の国が右往左往している。中国側は「米国は中国との交渉推進に十分誠意を持って臨んでいるようにはとても見えないどころか、むしろ強硬な姿勢に出てきている。米国が中国人民の意志を無視するならば、中国側から実効ある反応を引き出すことは恐らく今後も一切ないだろう」と米国側をけん制している。これからの米中の展開を読んでいくために、今回は特に中国の一帯一路戦略を中心に米中の対立ポイントを多面的に検証してゆきたい。
(米中の軍事力対立ポイント・兵器)
まずは軍事力およびインテリジェンスから米中の対立ポイントを見ていこう。米国の軍事力、そしてインテリジェンスは世界一であることは言うまでもないが、これに比べれば中国は、現段階では発展途上である。現在でも、中国人民解放軍では従来からある弾道ミサイルや巡航ミサイルなどのミサイル兵器が重視されている。グアムを射程に収める「東風26」や日本の米軍基地を狙う高性能な弾道ミサイルや巡航ミサイルが引き続き増強されている。また、人民解放軍ロケット軍は、核抑止およびA2/AD(接近阻止/領域拒否)戦略の主役でもあり、軍において重視されている。一方、中国人民解放軍海軍は潜水艦隊の増強を優先課題に掲げており、中国海軍は現在、弾道ミサイルを搭載できる原子力潜水艦(戦略原潜)を4隻、攻撃型原子力潜水艦を6隻、通常動力の攻撃型潜水艦を50隻保有している。2020年までに65~70隻規模に増やす計画である。空母については2019年中に1隻が就役の予定であり、現在2隻目を建造中である。
(米中の軍事力対立ポイント・台湾問題)
中国は台湾問題の解決が中国の夢の実現のためにどうしても必要と考え「平和的統一」を提唱しつつも、台湾への武力行使をにらんだ軍事力の増強を着々と進めている。人民解放軍は、台湾海峡有事に対する備えを持続している。米国は台湾海峡有事が起こった場合、中国が取り得る軍事行動として航空・海上封鎖やサイバー攻撃、台湾指導部の失権、軍事基地や政治中枢への限定的な精密爆撃やミサイル攻撃などを想定している。台湾に対するアプローチは「中国はひとつという原則にはこだわらない」と明言したトランプ政権になってから先鋭化し、米軍を台湾に駐留させてもいいともと言い始めている。この背後には対中強硬派のボルトン大統領補佐官の存在も影響しているとみられる。今後、米国が中国周辺に空母艦隊を派遣するなど、今後10年間の間に米中の間で局地的な緊張が起こる可能性はある。
(米中の軍事力対立ポイント・軍民融合政策)
最近、米国は中国指導部が軍民融合を国家戦略に昇格させたことに神経をとがらせているが、これは民間技術を軍事に適用し、逆に軍事技術を民間が活用することで軍と民の融合を図るという戦略だが、ハイテクを援用することで通常兵器では圧倒的に優位な米国の軍事力の上を行こうとする中国の意図が透けて見える。例えば中国が急ピッチで宇宙開発を進めるのは、民生だけでなく、軍事活用の狙いもあり中国人民解放軍は、制空権や制海権だけでなく、「制天(宇宙)権」の獲得も目指している。AI、GPS、ドローンの開発も軍事に直結している。この点を踏まえれば、米国がファーウェイの次世代通信網・5Gに神経をとがらせる事にも納得がいく。中国は軍民融合によって2035年までに人民解放軍の近代化を達成し、2049年までに経済や科学技術などの総合力で、世界最強の米軍を上回る軍隊をつくり、インド太平洋地域で傑出した国家となることを目指していると公言している。
(米中の対立ポイント・一帯一路)
続いて戦略的側面から対立ポイントを見ると、中国は、いくつかの切り札となるカードを持っているが、その中で最も効き目があるカードが「一帯一路」である。中国は「一帯一路」を中国が世界に提供できる最も重要な公共財だと位置付けている。日米は「一帯一路」を中国版マーシャルプランだと警戒感を強め、債務国を借金漬けにして世界中に中国軍の軍港を構築していると批判している。そんな批判をものともせず中国はロシアをはじめアフリカ諸国や中東諸国、ブラジルなどの中南米諸国、シンガポールやタイ、マレーシアのようなアジアの国々など150ヵ国の代表がすでに引き寄せられている。3月末にはイタリアが覚書に署名してG7すらも内部崩壊の危機にさらされている。中国は英米の諜報ネットワーク・ファイブアイズの突き崩しにも着手しており、米国は危機感を強めている。中国は「一帯一路」を通じて中国の政治的・経済的・軍事的影響力を行使し、世界における影響力を確立し米国の対抗勢力になろうとしているかのようにみえる。金融システムであるAIIB(アジアインフラ投資銀行)は「一帯一路」の金融としての後方支援になっており、現時点での参加国は97ヵ国を数え、米国が掲げる自由民主主義陣営にチャレンジするかのような勢いである。中国は最初に英国を陥落させ、AIIBに参加していないG7加盟国は今や日本と米国、カナダだけとなっている。実際には「一帯一路」をやりかけて途中で頓挫されているプロジェクトが多数存在するという批判も高まっている。また中国が他国同士の交流を許さないため「一帯一路」が事実上、中国と規模の小さい国による二国間のやりとりになってしまっているという根本的な問題を指摘する専門家も出てきている。
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世界経済の行方を左右する米中首脳会談(5月18日)
(もはや後戻りできない地点まできている米中貿易戦争)
つい最近までは、米中貿易戦争と米中覇権争いを切り離して解決していく流れに向かっていたが、中国国内の対米強硬派からの声を無視できなくなった習近平国家主席が米国との約束を反故にしたからだ。具体的には米国との間で交わした知財権、補助金、強制的技術移転に関する約束を合意文書に盛り込むことを拒否したために、米中の緊張が一気に高まった。米中貿易戦争はもはや後戻りできない地点まできている。...
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(もはや後戻りできない地点まできている米中貿易戦争)
つい最近までは、米中貿易戦争と米中覇権争いを切り離して解決していく流れに向かっていたが、中国国内の対米強硬派からの声を無視できなくなった習近平国家主席が米国との約束を反故にしたからだ。具体的には米国との間で交わした知財権、補助金、強制的技術移転に関する約束を合意文書に盛り込むことを拒否したために、米中の緊張が一気に高まった。米中貿易戦争はもはや後戻りできない地点まできている。すでに中国への追加関税第3弾は発動されているが、ある試算によるとこれによって日本の国内総生産が、約0.13%落ちると想定されており、さらにトランプ政権はほぼ全ての中国製品が対象となる第4弾の内容を公表したが、これが発動されると、米国が0.55%、中国が0.36%、日本は0.22%落ちることになり、日本の国内総生産は1兆円以上落ちることになるという。米国に対して中国は6000億ドル近い輸出をしているが、その裏側には日本の対中輸出、韓国の対中輸出、台湾の対中輸出が内包されている。米国にもブーメラン効果で影響が及ぶのみならず、北東アジア地域全域も米国の制裁の対象になってしまう状態になるといっても過言ではない。
(米国が強気なワケ)
中国が約束を反故にしたということももちろんあるが、米国がこれだけ強硬な態度を打ち出してきた背景には、来年の大統領選を見据え、米国民の間で広がっている中国脅威論の流れに乗っかり、大統領選を有利に戦いたいという思惑がある。さらに米国の経済が非常によいために中国に多少強く出ても米国へのリスクは比較的少ないという読みがあるためとみられる。逆を言えばトランプ大統領は景気の動向、株価の動向、支持率の動向次第では中国に対する態度をいくらでも軟化させることもありうるが、そう簡単には良い方向には進みそうもない。
(世界経済の行方を左右するG20米中首脳会談)
厄介なのはボトルネックになっているのが知財権の問題や中国国有企業の補助金の問題といった国の体制にもかかわる構造問題であり、さらに話を複雑にさせているのが、この流れにトランプ政権がファーウェイ禁輸問題を絡めてきたことである。この問題の本質は次世代高速通信5Gにあるため、国防や国の安全保障が必然的に絡んでくる。この部分については米中双方が折り合う可能性はほとんどない。ファーウェイの年間売り上げは全部で12兆円あり、日本企業も7000億円相当の部品を納入しており、世界経済全体に大きな影響を及ぼす可能性がある。G20における米中首脳会談でまずは両首脳が米中貿易戦争と米中覇権争いの問題を切り離し、冷静に話をまとめられるかに世界経済の行方がかかっている。
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米国商務省・締め付け強化・「ファーウェイ」への部品販売禁止(5月17日)
中国の通信機器大手・ファーウェイへの締めつけを強化した。
米国商務省は、ファーウェイが米国の安全保障や外交政策上の利益に反する活動をしていると判断し、米国企業が政府の許可なく電子部品などをファーウェイに販売するのを禁じる措置を実施すると発表した。
「この措置によって、必要な部品を調達できなくなるため、ファーウェイは一部の製品の販売が難しくなるおそれがある」と伝えている。
米国政府「中国ファーウェイへの部品販売禁止」(5月16日)
米国商務省は15日、ファーウェイが米国の安全保障や外交政策上の利益に反する活動をしていると判断し米国企業が政府の許可なく電子部品などをファーウェイに販売するのを禁じる措置を実施すると発表した。
ロイター通信はこの措置で必要な部品を調達できなくなるためファーウェイは、一部の製品の販売が難しくなるおそれがあると伝えている。
一方この日、トランプ大統領はファーウェイを念頭に米国の情報通信インフラに脅威を与えるおそれがある企業との取り引きを禁じる大統領令にも署名している。...
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米国商務省は15日、ファーウェイが米国の安全保障や外交政策上の利益に反する活動をしていると判断し米国企業が政府の許可なく電子部品などをファーウェイに販売するのを禁じる措置を実施すると発表した。
ロイター通信はこの措置で必要な部品を調達できなくなるためファーウェイは、一部の製品の販売が難しくなるおそれがあると伝えている。
一方この日、トランプ大統領はファーウェイを念頭に米国の情報通信インフラに脅威を与えるおそれがある企業との取り引きを禁じる大統領令にも署名している。これに対しファーウェイは声明を出し法的措置を取る構えも見せてけん制した。
ファーウェイを巡っては去年、孟晩舟副会長が米国の要請でカナダで逮捕されて以降、トランプ政権は安全保障上のリスクだとして締めつけを強化している。
米中双方が高い関税をかけ合って対立を深める中、中国への圧力を強め貿易交渉で歩み寄りを迫るねらいもあると見られている。
菅官房長官は「5Gネットワークのサイバーセキュリティ確保は安全保障上きわめて重要であると認識しており、米国政府の動向を含め関連の動きを注視している」とコメントした。
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中国外務省報道官“貿易戦争したくないが絶対に恐れもしない” (5月15日)
米国は中国からの輸入品3000億ドル分に関税を上乗せすると繰り返し威嚇し合意にならなければ中国はひどい損害を被るだろうと主張した。
中国外務省・耿爽報道官は「14日の会見で中国は貿易戦争を戦いたくないが絶対に恐れもしない」とコメントした。
トランプ大統領は先日、土壇場で中国側が合意していたいくつかを撤回したと指摘した。
こうした主張には中国側の姿勢が後ろ向きになり協議が妨げられているとの見方がある。...
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米国は中国からの輸入品3000億ドル分に関税を上乗せすると繰り返し威嚇し合意にならなければ中国はひどい損害を被るだろうと主張した。
中国外務省・耿爽報道官は「14日の会見で中国は貿易戦争を戦いたくないが絶対に恐れもしない」とコメントした。
トランプ大統領は先日、土壇場で中国側が合意していたいくつかを撤回したと指摘した。
こうした主張には中国側の姿勢が後ろ向きになり協議が妨げられているとの見方がある。
これに対し約束を破ったのは中国側ではなく米国だと報道官はコメントした。
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